聖人君子にはなれそうにない

煩悩たっぷりなP1の日々感じたいろいろな事について書くブログ

宝石店に潜む魔女

 ダイヤの指輪のダイヤモンドが1粒外れた。

 これで2度目。

 

 1度目は去年の12月。

 それまで、指輪を買ってからダイヤの指輪は仕事に行く時もほとんど毎日はめていた。初めてダイヤが1粒外れた時には、

「はめすぎて指輪にお休みをあげなかったからお疲れだったのね。

と指輪の外れた意味を乙女チックに自分なりに解釈した。そしてその指輪を買ったお店に修理に出した。

  

 年が明け今年の1月、修理が終わったと連絡を受けダイヤの指輪を受け取りに宝石店を訪れた。ダイヤの指輪の石が外れたことを反省し、宝石店の店員の彼女に勧められるまま仕事中もつけやすいようにこのダイヤの指輪より細くて華奢な新たな指輪を買うことになった。

 

 2度目は今年の7月。

 旅行から帰ってきて指輪を外すときにダイヤが1つが外れていることに気がついた。

 旅行を満喫してハッピーな気分で帰ってきたのに、急に大切なものを何処かは忘れてきたような喪失感に襲われた。

 

  9月になって、映画を見がてら街に出た。そのついでにダイヤの外れた指輪を持って久しぶりに宝石店を訪れることにした。

 その日は水曜日、なのに彼女はいた。

 

 彼女は辰年生まれの御歳64歳。肩までのワンレングス、やや茶色めの髪が光の加減で赤く見える。赤色のヘアーマネキュア をしているのだろう。宝石屋の店員らしく白のブラウスに黒のタイトスカート、黒のパンプス。薄化粧でピンクの口紅が妙に目立っっている。今日は少し口紅がよれている。まるで鏡を見ずに口紅を塗ったかのようだ。

 

 彼女は普段宝石店を人に任せ、週末の午後くらいにしか店に顔を出さない。だからダイヤの外れた指輪を持っていったものの、彼女いなければまた週末に日を改めて訪れるつもりだった。

 

 しかし彼女はいた。水曜日なのに!。

 しかも私の顔を見るなり、

「何度か電話かけたけど繋がらないし、ずっと会いたいと思っていたのよ。初めてあなたにあった2年前から私があなたのイメージを直々にデザイナーの人に伝えて、お願いして作ってもらった指輪が出来上がってきたから、是非見せたくて。」

「こんなこと気に入ったお客さんしかしないんだけどね、この指輪はね、絶対あなたにつけて欲しいのよぉ。」

 

といいつつ、

 

「 はめてみて〜💕」

 

と有無を言わさず、私の右手を取り、小指にその指輪をはめる。

 

「うわぁ、よぉ似合うわぁ、サイズぴったりやぁ。あなたのサイズ何処にも書いてへんけど、このくらいかなぁと思って作ってもらったのよ。これくらい太めのリングは指の肉のつき方でサイズが変わるから合わせるの難しいのよぉ。」

「あなたのために私が勝手にお願いして作ってもらった指輪、本当はイニシャルも入れようと思ったけれど、買ってもらえるかどうかわからへんから流石にそこまではしなかったけどね。」

 

 彼女は少し興奮気味なのか頬が紅潮している。

 

「本当に今日来てくれるなんて思ってもみなかったわぁ。私この6月から病気で入院していて3ヶ月お休みもらっていたのよ。今日はたまたま用があってお店に顔を出したのよ。うわぁ、本当に偶然、私の願いが通じたのよぉ、本当に嬉しいわぁ!」

「で、今日はどうしたん?」

 

 ダイヤが一粒取れた指輪を見せると

 

「なんで外れたんやろ?おかしいなぁ」

 

といいつつ指輪を眺め

 

「私の思いが通じて、この指輪があなたを呼んでくれたんやなぁ💕」

 

と言って、石の外れたダイヤの指輪を愛おしそうに撫でている。

 

 それから、いつもの電卓を引き出しから出してきて、数字を弾く。

「ダイヤの指輪の修理代と合わせてこの金額にしとくで、こんな金額で売ったら儲けあらへん、怒られるで内緒にしといてな。

 こんな値段私が気に入っとる人にしか出せへんで、あなただけ特別やでな。」

 

と、いつものセリフ

” あなたは特別大事なお客様 ” と感じさせるところが売るテクニックなのだろう。

 

 この ” 特別感 ”を与えられることで脳内モルヒネがどっと出て、気分が高揚し、自分の収入以上の買い物を繰り返し、買い物依存症になっていくのだろうと思う。

 

 この日はダイヤの指輪を修理に持って行っただけなのに 、結局デザイナーの方にお願いしたという指輪を買うことになった。恐るべし!、ベテランおばちゃん店員。

 

 そして昨日指輪の修理ができたと連絡があったので受け取りに出かけた。

 

「うわぁ、来るの待ってたんよぉ。

 この前は言わへんだけど、

 この前の指輪と一緒にデザイナーの人にネックレスも頼んであったのよぉ

 このデザイナーすごく気むずかしくて、気に入った仕事しかしてくれへんの!

 だからいつ出来上がるかわからへんでこの前来た時、言えへんかったんやけど、

 今朝届いたんよ!

 もうッ、ビックリやわぁ、だって今日来るなんてデザイナーの人に一言も言ってないんで知らへんのに、今日届くんやで! 

 もう縁がある、運命としか思えへん、早速つけてみて!」

 

と言ってネックレスを首にかける。

 

「やっぱりイメージ通りやわぁ・・・。よう似合っとる・・・。」

 

そして、またいつもの電卓を引き出しから足てきて、数字を弾いて、いつものセリフ

 

「この金額にしとくで、こんな金額で売ったら儲けあらへん、怒られるで内緒にしといてな。

 こんな値段私が気に入っとる人にしか出せへんで、あなただけ特別やでな。」

 

 しかも、金額もこの前と全く同じ!

さすがにここまでくるとやりすぎじゃない ” オバさん! ”

 

 だいたい、このダイヤの指輪2年の間に2回もダイヤモンドが外れるなんて不良品なんじゃないの?

 

 このダイヤの指輪との出会いは2年前の12月

この頃金の価格が安くなっていたので、金貨でも買おうかと思って街に出たのだが、

 ふらりと立ち寄った宝石店でバラをモチーフにした指輪に一目惚れしてしまった。そのバラの指輪に添えられて、ダイヤの指輪は店頭に飾られていた。

 その時に声をかけられたのが彼女

 

「このバラの指輪、素敵でしょ、なかなかこういうモチーフのはないのよぉ・・・」

 

「このバラの指輪と一緒にこのダイヤの指輪をはめて欲しいのよぉ。バラの指輪1つでもいいんだけど、二つ一緒の方が絶対豪華で素敵! あなたならこの指輪どの指ににはめたい?」

 

 しばらくその指輪と自分の指を見つめてから答えた。

 

「バラを左手の小指、ダイヤを右手の小指」

 

 すると彼女は私の顔をしげしげと見つめ、しばらく考え込んでから

 

「指輪をつける指には意味があって、左手の小指は変化やチャンスを引き寄せ願いを叶える、右手の小指は自分をアピールし、入ってきた運や幸運を逃さず守ってくれる、事故や病気からも守ってくれるという意味があるの。

 両手の小指に指輪をはめるとさらにパワーが上がって、呼び込んだ幸せや運をしっかりと掴み取ることができると言われているのよ。」

 

「指輪をはめる指にそんな意味があったんやぁ、そんなん知らんかったわぁ」

 

 私は指輪をつける指に意味があることをその時まで全く知らなかった。

 

「本当に知らないの? あなたは知らず知らずにうちに、変化やチャンスを求めているのね。」

 

 その言葉にギクリとした。その頃、自分の人生と将来についていろいろ考えていた。

 

 指輪を2つも買うつもりはなかったのだが、

「半額にするで2つとも買って行って! 原価割れや! 会社には内緒やで....。」

と彼女

「クレジットカードの限度額、残っていたらね」

と答えたら、クレジットカード会社まで自ら電話を始めた。

残念ながら、限度額は残っていた。

というわけで、2つの指輪が我が家に来ることになった。

 

 彼女は人の心をつかむのが本当にうまい。指輪の原価率は知らないが、商売だから原価割れはないはずだ。

 

 買ってからちょうど1年でダイヤが外れ、修理を終え受け取りに行って指輪を買わされたのが今年の1月、それから半年後の7月、2度目のダイヤが外れ、9月修理に持って行ってまた指輪を買わされ、さらに指輪を受け取りに行って、今度はネックレスを買わされそうになる。

 

 この後、ネックレスは丁重にお断りし、修理の終わったダイヤの指輪だけ家に連れて帰った。

 

 家に帰って、修理を終えた指輪をしげしげと見つめる。

 キラキラと光って綺麗だ。

 彼女はいい石を選んで入れてもらったと言っていた。

 でも私に鑑定眼などない。このキラキラ光る石が本当にダイヤがどうか私にはわからない。

 この指輪のせいで予期せず2つも指輪を買うことになった。

 買うことに決めたのは、あくまでも ” 私 ” なのだが、この指輪の作為を感じる。

 

 この指輪は、彼女の ” 眼 ” 、センサーなのだ。

 彼女は指輪に魔法をかけ、タイミングを見て、石を外して私を宝石店に呼び寄せる。

 彼女はただの店員ではない、宝石に取り憑いている ” 魔女 ” 

 

 この夜、私は夢を見た。

 この宝石店に2度と訪れることのないように、2度と石が外れることがないように、指輪をはめることなく宝石箱にしまって封印した。

 すると、宝石箱の中の指輪のダイヤが全て外れ、私にはいろいろな不幸がふりかかるという恐ろしい夢だ。

 ネックレスをお断りしたせいで魔女の怒りを買い、私はすでに魔女に呪いをかけられているのかもしれない。